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芸術の分野において、神話や伝承に結びつく作品は少なくない。

伝承が伝わるのは口伝だけではない。
書物、詩曲、絵画、時には隠語に姿を変え後世へ伝えられる。

この伝承もある戯曲が元に、世間に広まった。
だが忘れてはいけない。

その伝承は遥か昔から存在するのだから――

――ヴァルプルギスの夜

ある音楽家の戯曲で一躍有名になった、西洋のある地方のお祭り。

4月30日の夜、魔女たちが霧の山『ブロッケン山』に飛んできて
悪魔と宴を催したいう由来から、冬から春を迎えるお祭り。

何故魔女と悪魔の饗宴が春を迎えるお祭りなのかは、
当時の時代背景が物語る。


中世に広まったある一神教の布教により、
当時の土地神は異教の悪魔として定義された。

そう、魔女狩りの影響。


正しい定義は、古えの神々が春を迎えるため
山地の最高峰であるブロッケン山に集い、
冬の魔を払ったことに由来する。

そう、古代の神々による神聖な儀式。

日付が4月30日の夜なのは、
5月に春を迎え入れる為。


ところが、春を迎える儀式を新しい神に奪われたため事態は一変する。
古き神々を崇拝し、春を迎え入れる儀式を行う人々は魔女と定義された。

これが魔女と悪魔の饗宴の由来とされている。


 私たちは薬を塗りこめば速さが出る。
 ぼろきれひとつで帆が出来る。
 どんな桶でもよいお舟。
 きょう飛ばなければ、飛ぶ日はないぞえ。


これは魔女達が歌ったとされる歌の和訳である。

特に魔女として定義されたのは、薬師や薬剤師・産婆など
医術の分野に関わる女性達。「賢い女」と呼ばれた彼女達は、
優秀であるが故に危険視された。


童話の魔女が鍋をかき混ぜるシーンをよく見るが、
これらの中身は薬草スープである。栄養剤的な効果が
病気を治す魔法の薬として扱われたと推測される。


ヴァルプルギスの夜と関わりに深い薬草はカキドオシの花。
この薬草は伝統料理「聖木曜日のスープ」の材料になる。

また、カキドオシの花で作った冠は魔除けになると言われており
特に「ヴァルプルギスの夜」に編んだ冠は魔女を見分ける力が
あるという。


魔女の杖のルーツは、Hexe(ヘクセ)と言う単語から来ている。
Hexeには「魔女」という意味があるが、本来の意味は「垣根にのる女性」。

当時の社会では垣根は棒(杖)で出来ており、Hexeはその垣根を越える者
つまり『自由に異界へ出入りが出来る者』として捉えられていた。


なお、ヴァルプルギスの夜に魔女の箒に乗った魔女
と言う表記があるが、この地点では魔女の杖と箒を結び付ける要素はない。

魔女の箒が誕生したのはまた別の話。

魔女の箒は本来「穢れたものを掃く」と言う意味であり、
儀式が終わったあとに使うもの。

これが魔術の道具として扱われ
後の時代で混ざっていったものと考えられる。


上記の通り、ヴァルプルギスの夜の原典は
どちらかと言うと土着信仰による儀式に近い。

にも関わらず戯曲では負の要素で描かれたのは何故か。
それは負の要素から派生したと言う説もあるから。

元々ブロッケン山を含む山地は霧の深い地域であり、
数々の妖怪現象が起きるとされていた。

この気候条件が神の山と呼ばれる所以であり、
迂闊に踏み込んで命を落とさぬように、
悪魔の住まう地という伝承を生み出した。

こういった背景に当時の天候不順や宗教弾圧が噛み合わさって
ヴァルプリギスの夜は二面性を持つようになったのである。


古の神々の信奉とサバトの二面性を持つ
ヴァルプルギスの夜は、様々な作品で登場する。

ある作品の一つで、ヴァルプルギルの夜で祭られる悪魔は
『シュブ=ニグラス』であると定義される。

シュブ=ニグラスは豊穣の女神・母神という性格を持ち、
「千匹の仔を孕みし森の黒山羊
 (The Black Goat of the Woods with a Thousand Young)
「黒き豊穣の女神」「万物の母」などの異称を持つ。

また「外なる神」ヨグ=ソトースの妻であるともいわれる。

シュブ=ニグラスの負の一面は、快楽に関わる欲望の開放。
やはり二面性を持つ者である。

あまり聞かない名前かも知れないが、
黒魔術における黒山羊の召喚はシュブ=ニグラスを指している。

また『魔導書ネクロノミコン』に
その召喚方法が記載されているといえば、
サバトに縁が深い女神・悪魔であることが分かると思う。


かのようにヴァルプルギスの夜は、
神魔の強烈な二面性を持つ儀式なのである。



なお戦後、山に入れなくなったことから
最近の祭りは山周辺の街などで行われている。

このお祭りは当時の面影はなく、ただ楽しむためのものである。
また、扮するのも魔女側だけではなく、悪魔に扮する人もでてきた。
時代の流れとともに宗教性が失われるのは仕方が無いことだろう。


余談ではあるが、霧が原因で発生するブロッケン現象は
ヴァルプルギスの夜が行われるブロッケン山が由来。
この現象、東洋の島国では御来迎 (ごらいごう)とも呼ばれる。


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「ちなみに灯明祭は、形式は違うものの様々な国や宗教で
 行われている。その目的はほぼ一致していて
 迎え入れる者への――目印」

「有名なところだと、お盆なども灯明祭と言える。
 盆灯篭の灯で先祖が迷わないよう道を作る」

「ヴァルプルギスの夜もまた、
 人外のものを迎え入れる祭りなので
 灯明祭の流れを汲んでいるかも」


少女はそこまで喋ると、困ったように首を傾げる。

「困った――オチが無い」

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